Zview
[インサイト事業部]
Z世代に向けた広告は「短い時間で、違和感を与える」べし。街中広告マニアに聞く、街中広告の最新トレンド
![](https://boku-to-watashi-and.com/wp-content/uploads/2024/05/【Zstory】サムネイル-5.jpg)
情報社会と呼ばれる今、街の至るところで見かける「広告」の数々。膨大な広告の中で人の目を惹きつけ、自社をアピールするため、日々さまざまな企業が工夫を凝らしています。
しかし、現代はデジタルでの情報収集が主流な時代。買い物をするときはネットショッピング、移動時間の暇つぶしにはSNSやネットサーフィンを行う人が多いなか、企業が膨大な予算と時間をかけて街中に広告を出す意味とは何なのでしょうか。
今回はそんな疑問を解決すべく、広告に詳しい「専門家」へのインタビュー調査を決行!街中広告マニアとして活動しながら、広告マーケティングの情報メディア「アドクロ」の編集長を務める加藤誠也さんに、最新の街中広告トレンドをお聞きしました。
![](https://boku-to-watashi-and.com/wp-content/uploads/2024/05/LINE_ALBUM_加藤写真_240531_2-1024x682.jpg)
https://steel-legend-cd2.notion.site/ae27fcae98ca45b09aa4fd76dd5fb92f
加藤さんは注目の広告事例とアイデアのヒントをSNSで毎日発信されており、ときには10万件以上のいいねがつくことも。
日々「広告巡礼」を日課として、さまざまな広告を練り歩いている加藤さんだからこそ感じる最近の広告の特徴や、今企業が街の中に広告を出す意味について伺いました。
SNSは、広告をインプットするメモ帳。業界未経験のビジネスパーソンが「街中広告マニア」になったわけ
ーー加藤さんは今、毎日のように広告を投稿されていますが、どのようなきっかけで投稿を始められたのですか?
加藤さん:
転職先である今の会社が、広告業界でビジネスをしていたことがきっかけです。
実は私、もともとはあまり広告に興味がない人間だったんです。就活のときはもちろん、転職を考えた際もどの業界で働くかより「規模の小さい会社(スタートアップ)でバシバシ働く」ことを優先して考えていました。
ーーそうなんですね。そこからどのように広告に興味を持ち、Xで発信をするようになったのでしょうか?
加藤さん:
業界未経験でスタートしたため、まずは知識を身につけようと思ったんです。
私は会社で広告プランニングの役職を担うことになったのですが、それにはお客様からの相談を受けたうえで、使用する媒体や伝えるメッセージをプロフェッショナルとしてお伝えする必要がありました。これって、知識がないとかなり厳しい業務内容なんです。
だからこそ、まずは知識を溜めようと日々外出先で見かけた広告をスマホで撮影し、残すようにしました。最初は写真を撮って保存するだけだったのですが、せっかくならとSNSで感想や調べたこととともに発信しはじめたところ、今の活動につながるようになって。
ーー写真に加えて、ご自身の感想や周辺の事情についてもお話しされている印象があったのですが、それはお仕事に活かすためでもあるのですね!
加藤さん:
そうなんです。私が特に力を入れて発信しているXは、もはやメモ帳の代わりのようなものですね。頭のなかで思ったことや学びを画像とセットで発信するのは自分自身の勉強になりますし、どんな広告が人気があるのかインサイトを図ることもできます。
あと、Xの140文字で発信を行うことは、お客様と話す際の勉強にもなるんですよね。
その広告がどうすごくて面白いのかを140文字で伝えることって、結構大変な作業なんですよ。それを積み重ねることは自分の頭のトレーニングになりますし、端的にわかりやすく伝える勉強になっています。今でも模索する毎日ですね。
街中広告は、潜在層企業のコミュニケーション手段。オフラインのメリットを最大限に活かすには
ーー近年はデジタルマーケティングも広まっていますが、日々街中広告を見られている加藤さんは、最近の街中広告をどのように見られていますか?
加藤さん:
おっしゃる通り、近年は本当に多種多様な広告が現れるようになりました。しかし、街中広告の意味を為さなくなり、数が減ることはないと考えています。
街中広告がある事でWEB広告が活きた事例も増えている気がしますし、むしろこれからは目的や内容によって広告を使い分ける時代になるでしょう。
なぜなら、オフライン空間にある街中広告とオンライン上のWEB広告では目的が異なり、目に留める層が違うからです。
例えば、ジムが広告を出すとしましょう。そのとき、「ジムに通うと決めているけど、まだ通うジムが決まっていない」という顕在層に届けるのと「運動はしたいけど行動には起こしていない」層や、「現時点で運動自体に関心がない」準顕在層、潜在層に届けるのでは、与えるべき情報や伝えるメッセージがまったく違いますよね。
スーパーマーケットなどエリアマーケティング中心の業界はデジタルよりも紙や街中広告が適しているなど、業界適正もあるので、基本的には今後も使い分けが起きると考えています。
ーーたしかにWEB広告でもターゲティングは行いますが、街中広告においても年齢層や趣味嗜好による差は発生しますよね。街中広告はどのような役割を果たしているのでしょうか?
加藤さん:
街中広告は、自社の商品やサービスのことをまったく知らない人に「こんなものがあるんだ!」と発見や気づきを与える広告媒体だと考えています。売ったり利用してもらったりする役割はもちろんですが、コミュニケーションをとる手段として存在しているイメージですね。
ーー「コミュニケーション」ですか?
加藤さん:
はい。…というのも、今はものを売る前に、まずは認知を取らなければならない時代なんですよね。
少し前であれば、人の目につく場所で良い広告を掲示すればモノが売れたのだと思うのですが、今は情報が溢れ返っているため、「何となく知っているけど詳しくは知らない」という現象も起こりがちです。
そのため、まずはいかに商品をまず知ってもらうかが重要となります。しかし、街中広告の場合はWEB広告と違って見る人をターゲティングできないため、その商品に興味がある人ばかりが目の前を通るわけではありません。
だからこそ、商品以外の方法で他社との差別化を図りつつ、人の印象に残るような施策を行う必要があるのですが、その1つが広告に「コミュニケーション」の要素を加えるなど広告に工夫を凝らすことだと考えています。
例えば、SNSと連動した企画を交えたり、見た人に何かアクションを起こしてもらったり…。最近では、巨大ポスターからステッカーを剥がすことができる駅広告が渋谷駅で話題になりましたね。
有名インフルエンサーやアニメとのタイアップ企画もコミュニケーション例のひとつです。コラボ相手のファンからの認知を獲得できるほか、その人たちがSNSで拡散した内容によって街中広告単体では出せなかった効果が現れることがあります。
ーー街中広告とWEB広告を使い分けるだけでなく、街中広告をSNSの口コミで拡散するパターンもあるのですね。他にも街中広告ならではの特徴はありますか?
加藤さん:
「〇〇の日」や春夏秋冬といった、季節性が顕著に見られることではないでしょうか。
皆さんも春には受験生を応援するようなメッセージや、新生活に備えた家具家電の広告を目にすると思いますが、季節性はコミュニケーションの話題として取り入れやすいため、街中広告では多く見られます。僕も毎日広告を見ているうちに、広告で季節の流れを感じるようになりました。
一方で、WEB広告はユーザーの検索ワードや嗜好性に関連した広告を出すのに適しているため、「〇〇の日」などの限定された時期しか出すことができない広告は街中広告のほうがマッチするのではないかと。
掲載する場所によって人を惹きつけることができるのも特徴ですね。スキマ時間を活用したアルバイトを実現するアプリ「タイミー」の広告では、自動販売機と床の間やビルとビルの間など、あらゆる「隙間」に広告を張り出していたりします。
まったく見られない可能性もあるなか、コンセプトを形にしたタイミーさんの姿勢はすごくユニークで、心を動かされました。
ーー街中広告においては「不特定多数の人間の目に触れる」「掲載場所を選べる」など、オフラインならではの特徴をいかに生かせるかが差別化のポイントなのだと分かりました。
加藤さん:
個人的には、「誰かに教えたくなる」「感想を言いたくなる」などの気持ちの乗りやすさも他の広告から頭1つ抜けるためのポイントだと考えています。
日々発信をするなかで、一目見て言いたいことが溢れてくるような広告は、SNSでも話題になりやすいんですよね。
それは、その広告が多くの人にとって写真を撮りたくなったり、ツッコミや意見をしたくなるような広告である証なのだと思います。そんな衝動を引き出すためにも、引っ掛かりを作ることが必要ですね。
若者向け街中広告に必要な「短い時間で、違和感を与える」広告の秘訣
ーー続いて、若年層向けの広告事情についてもお聞きしてみたいです。先ほどターゲットによって掲載する内容や使う媒体が異なるというお話もありましたが、若者向けの広告にはどのような傾向がありますか?
加藤さん:
取り上げるメッセージ、つまりコミュニケーションの手段として「サステナブル」を訴求する広告はかなり増えたように思えます。商品が作られたストーリーを伝え、手に取ることでどう環境に貢献できるのかを訴求する広告ですね。
少し前であれば「商品が良いから買って欲しい」という訴求が多かったのですが、今の広告は、「商品やサービスを手に入れたときにどんな世界が広がるのか」をターゲットに想像させます。
最近では、猛暑や異常気象など肌で環境変化を感じることが多くなってきましたし、商品を手に取ることで環境に貢献したいと考える人も増えてきたのではないでしょうか。
ーー街中広告といえばコピーやデザインに工夫を凝らしたものが多くありますが、若者向けのクリエイティブに見られる特徴はありますか?
加藤さん:
あくまで個人の感想ですが、シンプルなものが多いと感じています。書かれている文章も、頭をひねって考えさせるようなものよりは、ストレートでわかりやすいメッセージを採用している印象です。
最近は「タイパ」と表現されますが、これは今の若者が早く情報を得たいと考えていたり、1つの情報に留まる時間が短かったりする証拠なのではないでしょうか。
全体としては引っ掛かりがあり、気持ちをのせやすい広告がウケていることを思うと、若者向けの広告においてはいかに短い時間で違和感や誰かに伝えたい!と思うような感想を与えられるかが重要になってくると考えています。
ーー他の広告と一線を画すために、短い時間で違和感やインスピレーションを与える…いかにシンプルでおもしろいものを作るのか、発想が問われますね。
加藤さん:
そうですね。違和感を作るには企画のアイデアやメッセージも重要なのですが、あえて広告を洗練させすぎないのもポイントなのではないかと考えています。
…というのも、最近若者の間で流行っているものはどこか雑さが残っていたり、不便だったりすることが多いんです。
TikTokなどで大流行した「猫ミーム」は素材を切り貼りすることで誰でも再現できることを良さとしていますし、一つひとつの素材も画質や音質が良いとはとてもいえません。
「写ルンです」などのフィルムカメラやレコードが再度ブームになったり、「Y2K」など平成初期のファッションが再び流行したりしたのも、その傾向の1つなのではないでしょうか。
さまざまなサービスが発展した今は、ある程度のクオリティのものであれば、昔より格段に簡単に、多くの人が作れるようになりました。クオリティの高いものに見慣れているからこそ、少しノイズがあるほうが人の目を惹くのかもしれません。