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[インサイト事業部]

ワンホンメイクはなぜ日本でウケた?中華ブームの火付け役に聞く、“中華風”流行のワケ

日本の若者の間で流行っている「海外の文化」といえば、皆さんはどこの国を想像するでしょうか?

K-POPで圧倒する韓国、エスニック料理で支持を集めるタイなど、さまざまな国が想像されると思いますが、最近日本の美意識の高い若者を中心に大ブームとなっているのが「中国」のカルチャーです。

特に人気を集めているのは、中国のインフルエンサーを中心に広まる「ワンホンメイク」。一般的なメイクよりも多くの工程をかけ、まるで人形やアニメの登場人物のような美しさを追い求めるのが特徴です。

このトレンド火付け役となったのが、中国の若者トレンドや美容を中心にX(旧Twitter)で発信を行う「中国女子の呟き」こと、リンさん。

フォロワーは7.7万人以上。中華トレンド発信メディア「チャイナ情報局 ハオハオ」や中華好きコミュニティ「好好」の運営を行う傍ら、中国発ブランドの日本市場への進出支援を行っています。

「中華カルチャーを身近に感じることができる機会を増やし、日本と中国の架け橋となりたい」という想いから発信を続けるリンさんに、「ワンホンメイク」をはじめとする中国のカルチャーの人気理由や、美容に敏感な日本人が中国発のメイクに憧れるポイントについて伺いました。

「中国の新たな一面を知ってほしい」発信を始めたきっかけ

ーーリンさんは、どうして中国について発信するようになったのでしょうか?

リンさん:

中国の良い面や若者トレンドを知ってもらうことで、従来の印象を変えたいと思ったことがはじまりです。

私は中国で生まれ、小学校5年生の頃に両親の仕事の都合で日本に来ました。日本語が話せず、何とかまわりとコミュニケーションを取りたいと必死で日本語を勉強したのですが、日本語を学ぶなかで気付いたのは、日本では中国に良好なイメージを抱えている人が少ないことでした。

特に当時は、悲しい出来事が世の中で多発していたころだったんです。中国製の冷凍ギョーザを食べた方が体調不良となる事件が起きたり、中国で日本のキャラクターのパクリ商品が生まれたりと、中国に対するイメージダウンになっても仕方がないようなことばかりで。

ただ、私はそういった出来事を背景に「中国人=危険、悪者」という印象が日本で広まっていることにショックを受けたんです。出来事があったのは事実ですが、これはあくまで中国の一面であって、本当は良い人もいるし、素晴らしいカルチャーもあるのに…と、違和感を覚えていたんですよね。

「自分こそは良い大人になって、中国人にも素敵な人がいて、中国にも誇れるカルチャーがあるんだと伝えたい」「もっといろんな中国の面を知ってほしい」そう思いつづけたことが、今の発信活動に繋がっています。

ーーなるほど。そこからすぐにSNSでの発信をスタートされたのでしょうか?

リンさん:

当時はSNSで発信をするという考えがなかったので、最初は本当に身近な友だちに、あまり知られていない中国の一面や日本にはないカルチャーについて伝えていました。「どう思われるかな?」と不安に思っていましたが、話すと興味を持ってくれたり、おもしろがってくれたりする人が多く、手応えを感じていましたね。

SNSで発信を始めたのは、2020年頃に流行した招待制音声配信SNSの「Clubhouse」がきっかけです。これが私にとって初めてのSNS発信で、最初は中国語を教えていたのですが、気付けばアカウントのフォロワーが6,000人ほどになっていたんですよね。

ーー6,000人ですか! すごいですね。

リンさん:

当時、インフルエンサーの皆さんの中にはX(旧Twitter)ではたくさんのフォロワーがいるのにClubouseではあまりアカウントが伸びないと悩んでいる方もいたそうです。

そこで知り合いから「こんなにアカウントを伸ばせるのであれば、他のSNSもやってみれば?」と言われ、Xでの発信を始めました。

日本に住む中国人目線で、本場の情報をキャッチ

ーーClubhouseでSNSの影響力に気づいたからこそ、今度はXで中国の良さを伝える活動を始められたのですね。

リンさん:

そうなんです。最初は言語や渡航情報、観光スポットなど、中国にまつわる役立ちそうな情報を投稿していました。

今はそのなかでも特に反響が大きく、バズることも多かった美容に関する話題や、若い女性の間で流行っているものを軸に、発信を続けています。

ーーリンさんは日本に在住しながら中国のトレンドに関する発信を続けられていますが、最新の情報はどのようにキャッチしていますか?

リンさん:

出張で中国に行く機会も多いですし、自分は中国籍で帰国するのも楽にできるので、現地で若者が何をしているのか観察したり、話を聞いたりすることで情報を持って帰ってきます。あとはもちろん、中国系SNSも欠かさずにチェックしていますね。

これは、他の国と比べて中国の内情やトレンドが世界に伝わりにくい理由にも繋がってくるのですが、中国で利用されているSNSの多くは、世界で広く利用されているものとは異なり、中華圏内独自で利用されているものがほとんどです。

たとえば、Instagramの代わりとなる「小紅書(RED)」、TikTokの中国版「抖音(Douyin)」、Xの代わりには「微博(Weibo)」など、それぞれに対応するような役割をもったSNSがあるので、それらを頼りに情報を集めています。

日本のZ世代に「ワンホンメイク」が刺さったのはなぜ?

ーーさまざまな情報を発信するなかで、特に中国の美容がバズった理由はどこにあるのでしょうか?

リンさん:

ちょうど私が発信を始めたのと同じころ、中国メーカーのコスメが日本で大きな反響を呼んだことが大きく影響していると考えています。

中国メーカーのコスメ、特にアイシャドウやリップなどの色ものは、日本のものに比べて彩度が高かったり、パッケージが変わった形をしていたりと、インパクトのあるものが大きいんです。。

そのため「このコスメはどう使うのだろう?」「中国ではどのようなメイクをしているのだろう?」と、徐々に中国のメイクやインフルエンサーに対する興味関心が高まったのだと思います。

ーーそもそもこの「ワンホン」とはどういう意味なんですか?

リンさん:

「ワンホン」は漢字で「網紅」と書く、中国のインフルエンサーを意味する言葉です。

「網」はインターネット、「紅」は人気や有名という意味を持ちます。中国は人口が多く、TikTok(中国版)の普及率も高いことから、インフルエンサーがテレビに出る芸能人と同じか、それ以上に大きな影響力を持っているんです。

そんなワンホンを中心に広まったメイク方法の総称が「ワンホンメイク」なんです。

YouTubeなどのSNSでメイク術を調べる方であれば「純欲メイク」「水桃蜜メイク」という名前に心当たりがあるのではないでしょうか。これらは「ワンホンメイク」の一種であり、今のワンホンブームの火付け役になった存在です。

ーー世の中にはさまざまなメイクスタイルがあるなかで、「ワンホンメイク」が日本の若者に刺さった理由はなんだと思いますか?

リンさん:

ビフォーアフターの差の大きさと、メイク後の隙のない美しさだと思います。日本女性が比較的ナチュラルメイク志向なのに対し、中国のインフルエンサーは、スキンケアもしていないような状態からメイク・ヘアセットをした状態までを届けています。

「ワンホンメイク」は一つひとつのパーツを大きく派手に見せるのが特徴であり、インフルエンサーは1つの作品を作るようにメイクをしているため、メイク前後の変化が激しいのです。

そのため、日本人のなかでも特に美容意識が高く、一通り基本的なメイクを覚えているような方からすれば「これがメイクの限界だと思っていたけれど、もっと変われるんだ」「美しくなれるんだ!」と希望を与える存在となるのです。

ーー「ワンホンメイク」以外にも「ワンホン〇〇〇」として流行っているものはあるのでしょうか。

リンさん:

日本では「ワンホンネイル」も人気ですね。透明感のあるカラーとキラキラしたストーンが特徴で、日本のスタイルにも馴染みやすかったことから、自分のネイルが「ワンホンネイル」だと認識していない人もいるかもしれません。

ワンホンを気軽に楽しめる世の中を作り、美の幅を広げたい

ーー今後、日本で流行りそうなワンホンのカルチャーはありますか?

リンさん:

「ワンホンファッション」は今後ブームになる可能性が高いですね。

中国ブランドのなかには、日本の服とも韓国の服とも違ったユニークなデザインが取り入れられているものが多くあります。

最近では韓国アイドルのようなファッションを日本のアパレルブランドが売り出しているのと同じように、今後は中国ブランドで流行っているデザインを日本で見ることが増えると考えています。

また、コスメ市場もより広がると考えています。特に注目しているのは、「ワンホンメイク」をするための「道具」ですね。

ーーコスメではなく、道具ですか?

リンさん:

はい。ワンホンブームとともに中国コスメはかなり増えてきましたが、日本国内では細かなメイクを施すための細い筆や、束間のあるまつ毛を作るための道具を買えるお店がまだまだ少ないと感じています。つまり、「ワンホンメイク」を再現したくても完全に再現ができないのです。

今はまだ「SHEIN」などの通販サイトでしか買うことができないような、中国インフルエンサーがよく使用しているアイテムも、今後は確実に店頭に並ぶようになると思っています。

私自身もワンホン協会として、そんな「ワンホンメイク」に憧れている人の力になりたいと思い、こうした「まだ日本にない中国コスメ」や「“なりたい!”を叶える道具」を中国から輸入できないか日々模索中です。

ーーありがとうございます。最後に、今後リンさんがワンホン協会としてやりたいと考えていることがあればお聞かせいただきたいです!

リンさん:

「ワンホンメイク」は、美の幅を広げる存在だと考えています。最初は「中国のことを知ってもらいたい!」と思い始めた発信ですが、フォロワーさんとの交流を通じて私自身もワンホンメイクの可能性に確信を持つようになりました。

また、最近は「ワンホンメイク」の無料モニター体験を実施しているのですが、実際に目の前でワンホンメイクを通して更に可愛くなってワクワクしている方を目の当たりにし、お役に立てていると実感できる機会も増えました。

だからこそ私たちは、もっと多くの人に気軽に「ワンホンメイク」を体験していただけるよう、「ワンホンメイク」を体験できるイベントや、プロメイクアーティストの皆さんへのメイク講座をこれから積極的に開いていきたいと考えています。

皆さんが「ワンホンメイクをやってみたい!」と思ったときにすぐに試せる世の中を絶対につくってみせるので、楽しみに待っていてください!