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[インサイト事業部]
地方創生の成功事例を紹介│取り組みが必要な理由や戦略のポイントについて
地方創生の成功事例を紹介│取り組みが必要な理由や戦略のポイントについて
地方創生は、日本全体の発展に欠かすことのできない取り組みとして、各自治体で推進されています。
地域ごとに異なる課題を解決するためには、各地の成功事例を分析することで得られる戦略的な視点の理解が必要です。
この記事では、実際に成功した地域創生の事例を紹介し、成功の理由や戦略のポイントについて解説します。
地方創生が必要とされる理由も解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
地方創生とは
地方創生とは少子高齢化に対応しながら、それぞれの地域資源を活用し、持続可能な発展を促進するためのプロセスや方針を指します。
政府と地域が一体となって取り組むため、平成26年に長期ビジョンと総合戦略が策定されました。
まち・ひと・しごと創生「総合戦略」
平成26年に長期ビジョンとともに策定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」です。
2060年に1億人程度の人口を維持するという将来像を実現するために、直近5カ年の政策目標・施策を策定しました。
2015年に第1期がスタートし、2020年からは第2期がスタートしています。
第2期で掲げられた目標を達成するための政策・施策に関して、今後の指針をとりまとめた「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」が令和3年に閣議決定されています。
3つの視点を加えてバージョンアップ
「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」では、感染症の影響を踏まえた基本的な方向性として、以下のような内容を目指すとされています。
- 地域の特色を踏まえた自主的な取り組みの促進
- ひと・しごとの新たな流れを生み出す
加えて地方創生への取り組みをバージョンアップするために、以下にまとめた3つの視点も追加されました。
- ヒューマン(地方へ向けた人の流れを創出、および人材支援)
- デジタル(地方創生に資するDXの推進)
- グリーン(地方が牽引する脱炭素社会の実現)
地方創生の多岐に渡る課題を解決するため、全省庁と連携を取りながら政府一丸となって取り組んでいます。
地方創生が必要とされる社会的課題
地方創生が必要とされるのは、日本全体で取り組むべき社会的課題を解決するためです。その社会的課題とは、以下の3つを指します。
- 少子高齢化
- 人口減少
- 東京への一極集中
少子高齢化
日本は少子高齢化が進み、労働人口の減少と高齢者向けサービスの人手不足が加速しています。
平成9年に65歳以上の人口が0~14歳の人口を上回り、平成27年には75歳以上の人口も0~14歳の人口を上回りました。(総務省統計局)
地域経済にも深刻な影響を及ぼしており、問題解決に向けた早期の取り組みが必要とされています。
人口減少
少子高齢化とともに問題視されているのが、日本の人口減少です。人口減少により生じる課題については、以下があります。
- 需要低下による経済規模の縮小
- 労働力の不足
- 国際競争力の低下
- 社会保障制度の崩壊
- 財政危機
- 自治体の担い手減少
いずれも深刻な問題であり、国レベルを超えて対処すべき課題だと言えます。
東京への一極集中
総務省の「住民基本台帳人口移動報告 2022年結果」によると、東京圏への転入超過は9万9519人で、前年より1万5081人増加しています。
日本全体の人口が減少していく中で、地方から東京へ人が流出することにより、経済活動の減衰を招く過疎化が進んでいる状況です。
地方の人口がさらに減少していくことで、将来に向けた発展と存続が危ぶまれています。こういった事象も、地方創生が必要とされる課題です。
【観光】地方創生の成功事例
以下では、実際に成功した地方創生・地域活性化の事例について解説します。まずは観光に関する取り組みについてです。
北海道虻田郡倶知安町
北海道倶知安観光協会は、Z世代をターゲットにした地方創生を企画する「僕と私と株式会社」と協業して、北海道ニセコエリアでのワーケーションツアーを実施しました。
ファミリーを対象にして、親はワーケーション、子どもはキャンプを楽しむという内容です。地元の食材や自然と触れ合うアクティビティを詰め込んだツアーになります。
ニセコエリアならではの大自然と、すでに存在している豊富な滞在型宿泊施設を利活用して、地域で働くことや地方移転促進も狙う戦略です。
参加者からは「快適に仕事を進めることができた」「子どもたちも楽しく過ごすことができた」などの好意見が集まり、地域の魅力を再発信することに成功しました。
岐阜県可児市
岐阜県可児市の取り組みは、近辺に点在する歴史資産に注目したものです。「戦国城跡巡り事業-可児市の乱-」と題して、城跡の活用に着手しました。
中でも戦略の要となったのが「チャンバラ合戦-戦 IKUSA-」と呼ばれるアクティビティです。
簡単なルールのもと、柔らかいスポンジ刀を使って、合戦のように大人数で戦います。年齢や性別を問わず、楽しく安全に遊べるイベントとして大人気です。
歴史に興味のない層へのアプローチにも成功し、チャンバラを通して地域住民とのワークショップも実現させています。
【移住】地方創生の成功事例
次に紹介するのは、移住を促進する目的で実施された地方創生の成功事例です。
徳島県神山町
人口減少という問題を解決するために徳島県神山町が取り組んだのは、首都圏のサテライトオフィス誘致です。
そのために日本トップクラスの高速ブロードバンド環境を整えて、古民家を活用した拠点候補を提案する活動を進めました。
そのほか、町に必要な人材を誘致し、職業訓練や企業支援を提供しながら、移住者と自治体の双方が満足できる環境を目指した点も成功を招いたポイントです。
【街づくり】地方創生の成功事例
以下は、街づくりに焦点を置いた地方創生の成功事例です。
福井県鯖江市
福井県鯖江市が取り組んだ地方創生は、若者が住み続けたいと思える街づくりです。第一の施策として進めたのは、国内シェア90%以上を誇る眼鏡フレームのブランド化でした。
その結果、厳格な職人の手から生まれる高品質な「鯖江の眼鏡」は、世界シェアの約20%を占める産地統一ブランドとして国際的な地位を確立しています。
そのほか、オープンデータを活用する「データシティ鯖江」や、市民協働推進プロジェクトとして設置された「鯖江市役所JK課」の活動など、さまざまな施策も推し進めてきました。
街づくりを目的に、産業の育成や雇用の拡大、人口の増加を実現した事例です。
石川県金沢市
石川県金沢市は「市民や来街者の利便性・回遊性の向上」や「まちなかの賑わい創出」を目的として、公共レンタサイクル「まちのり」を導入しました。
事業内容として、鉄道を始めとした公共交通との連携ツアーや、まちなかサイクリングツアー、商店街のクーポン発行などが挙げられます。
利用者の9割は観光目的の街来者となっており、まちなかの回遊性に寄与している状態です。観光客の増加に伴って、当初の予想を大幅に超える利用を達成しています。
【教育】地方創生の成功事例
続いて教育に関連した地方創生の成功事例についてです。
島根県海士町
「島前高校魅力化プロジェクト」と呼ばれる地域活性化の事例で知られているのが、島根県海士町になります。
少子化の影響で廃校の危機となっていた島唯一の高校を、独自性のある学びを提供することで留学生を多数集める人気校へ変貌させました。
その内容は島全体を学校とし、地域住民を先生に、地域課題を教材に据えることです。留学生に対する食事や旅費の補助、特別コースの新設により生徒数は増加しています。
茨城県取手市
市内に活気を戻すこと、20~30代の若年層流出を防ぐこと。この2つを達成するために地方創生の取り組みを始めたのが茨城県取手市です。
具体的な事業内容として、レンタルオフィス機能を持つインキュベーション施設の設置や、セミナーおよび創業スクールの開催を推進しました。
また、市内の中小企業等で結成する起業応援団による起業家向け支援、団体の参加を促すフリーペーパーの発行、他地域との交流強化などにも取り組んでいます。
結果として起業者数・インキュベーション施設利用者数・起業応援団の参加企業数などに数値的成果が見られました。
【雇用】地方創生の成功事例
以下では、雇用創出に関係する地方創生の成功事例を紹介していきます。
北海道各地
北海道の社会的課題に取り組む事業者と、ふるさと納税者をつなげた「MUFG北海道推しごとオーディション」は、地方創生の新しい形とされています。
特徴として挙げられるのは、資金を募りたい事業者を審査する際に、Z世代の視点を取り入れた点です。
僕と私と株式会社が作成するオリジナルのTikTok動画を投稿し、集まった「いいね」を参考に寄付へとつなげる取り組みとなります。
面白おかしく作成された事業紹介動画にたくさんの声が集まり、若者が持つ事業者に対しての理解や興味を高めるという成果が得られました。
福井県内各地
地方への就職意欲を高める支援として、複数の取り組みを開始したのが国立大学法人福井大学です。
地元企業の魅力を発見してもらう企業見学バスツアーや、さまざまな形式の企業説明会を実施して、福井県との連携(バスツアー・雇用セミナー)も進めました。
取り組みの成果として、県内の就職率38.0%・県内就職者274名(平成27年度)を達成し、離職率については全国平均31.0%を大きく下回る7.1%を記録しています。
【その他】地方創生の成功事例
最後にこれまで紹介した括りに属さない、地方創生の成功事例を紹介します。
長野県川上村
農業に着眼した地方創生の取り組み事例です。長野県川上村は標高の高い位置にあることから、レタスやハクサイなどの高原野菜に着目し、栽培に取り組んできました。
レタス栽培に関する技術革新や新技術の導入に注力し、気象情報の提供や流通システムの確立にリソースを割いた結果、収穫量全国1位にランキングされるまで成長します。
平成19年度には地元農家の平均年収が2,500万円を超えることとなり、後継者の定着・出生率トップクラスの維持という成果も得られました。
地域の特徴を活かした取り組みで、地域活性化と少子高齢化対策を実践した理想的なケースです。
北海道小樽市
地域産業と観光、そして海外輸出をかけ合わせた、グローバルビジネスへの挑戦に取り組んでいる北海道小樽市の事例を紹介します。
活動の中心となったのは、道産酒を知ってもらうためのガイドブック「パ酒ポート」の作成です。
これにタクシーツアーや酒蔵ツーリズムなどを組み合わせたパッケージ商品を展開し、合わせて工芸品や食、道産酒をセットとした販路拡大も狙いました。
ツアーの実施により、1酒造メーカーにおいて年間集客者数3,462名、299万円の売上増、雇用者数10名増(平成28年は外国人も雇用)という成果が得られています。
地方創生を成功させるための取り組みポイント
これまでさまざまな地方創生の成功事例を紹介してきましたが、各自治体が描く戦略を分析すると、以下の共通ポイントが浮かんできます。
- 既存の地域資源を活用する
- 中長期的な戦略を立てる
- 成功事例をそのまま流用しない
- 人口増加を第一としない
これらの内容は、地方創生を成功させるための取り組みポイントなので、しっかりと理解しておくことをおすすめします。
既存の地域資源を活用する
既存の地域資源を活用することに重点を置くと良いです。すでにある施設・資源を使用することで、事業者や住民の負担を軽減できます。
地方創生を担う新たな資源・施設を創出する方法もありますが、施策を推進するためのコストやノウハウが足らず失敗に終わるリスクが高いため、既存の資源を活用することでリスクヘッジになるでしょう。
中長期的な戦略を立てる
地方創生の取り組みに短期的な成果を求めてはいけません。中長期的な戦略のもとに、要所要所で調整を交えながら施策を進めていく必要があります。
地域ごとの強みを分析し、それぞれの魅力を打ち出しながら、慎重に取り組みを推進させてください。
成功事例をそのまま流用しない
地方創生の施策は、地域ごとの課題を解決するものです。成功事例をそのまま流用しても、期待するような効果は得られない恐れがあります。
成功事例を真似するのではなく、戦略のポイントや成功要因を分析して、参考となる部分を取り込みながら自身が住む自治体の地方創生を進めましょう。
人口増加を第一としない
地方創生の施策は、主に人口の増加に焦点を当てたものですが、それを達成するには各地域の特徴を活かして魅力的な社会を作り出す取り組みが必要です。
人口増加を第一としてしまうと魅力的な街づくりの部分が抜け落ちてしまい、地方創生の効果が見込めなくなる恐れもあります。
まずは興味を持ってもらう、そこから魅力を伝えることに注力し、最後に定住のイメージを抱いてもらう、こういった流れを持った施策のほうがより効果が高いと言えるでしょう。
地方創生とインバウンド事業
各地域で地方創生が推進される中、インバウンド事業にも注目が集まっています。外国人観光客を取り込むことが地方創生につながるのは、以下のような理由からです。
- インバウンドによる経済効果
- UIJターンへの期待
各内容についても詳しく解説していきます。
インバウンドによる経済効果
インバウンド事業が地方創生に資するのは、その地域に大きな経済効果を生み出すからです。ここで国土交通省がまとめているデータを見てみましょう。
定住者1人当たりの年間消費額は125万円とされていますが、その値を旅行者消費に換算すると国内旅行者(宿泊)25人分に対して、外国人旅行者はわずか8人分です。
また外国人観光客の1日における消費は国内旅行者の3倍以上と言われており、この点においても地域活性化の一助となることが分かります。
インバウンド事業による経済効果を利用すれば、人口減少による地域経済の縮小もカバーすることが可能です。
UIJターンへの期待
インバウンド事業により地域経済が盛り上がれば、都市圏へ流出した人材のUIJターンが期待できます。
出ていった人たちが戻り人口が増えれば、新たなビジネスが生まれ、雇用の拡大にもつながるでしょう。
もちろんインバウンド事業にだけ頼っていては、継続して人口を増やすことはできません。地域の特徴や魅力を発信し、若年層が定住を望む環境の構築が必要です。
地方創生と地域活性化
地方創生と似た言葉に「地域活性化」があります。
似たような言葉であり混同しがちですが、厳密な定義で比較すれば違いを理解することも可能です。
地域活性化とは魅力的な街づくり
地方創生の施策は、人口の格差をなくすことに焦点を当てたものですが、地域活性化は魅力的な街づくりを進める施策を指します。
別の言い方をすると「地域の存続とそこに住む人々の生活維持」、これを目指して活動していくのが地域活性化の取り組みです。
地域を発展させていく街おこしや村おこし、地域振興など、活動も地域活性化の一環と言えます。
地方創生の施策も地域活性化へとつながる
地方創生の施策は、すべて地域活性化へとつながるものです。それゆえ2つの言葉は同じような形で使われます。
各自治体が進める地域活性化への活動、それらの基本方針を示しつつバックアップするために必要な国の取り組みも地方創生と言えるでしょう。
まとめ
地方創生の施策は国と自治体が一体となって取り組むべきもので、少子高齢化や人口減少、東京への一極集中を課題として推進されます。
国が策定した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をもとに、各地域においても取り組みを進めますが、その内容は地域の存続、そこに住む人たちの生活維持を目標とするものです。
記事内で紹介したように、地方創生の成功事例は各地域のさまざまな取り組みとして存在しています。
戦略のポイントを理解して、自身が所属する自治体の取り組みに応用できれば、効果の高い地方創生に一歩近づけるでしょう。